心臓病
初期には症状がはっきりと現れず、意外に多い病気:心臓疾患です。
診察の中でも『最近、眠る時間が長くなった』、『咳をするようになった』、『抱っこしたときに心臓の拍動が強く感じる』などのご相談をいただき、身体検査にて心雑音が聴取されることもあります。しかしながら実際には全く症状がなく、ワクチンや爪きりでご来院の際の身体検査から心雑音が聴取され、検査を行うことで見つかることのほうが多いように感じます。
これはイヌ・ネコの心臓疾患が末期にならないと分かりやすい症状を呈さないことがひとつの要因になっています。また心臓疾患は、高齢になるほど割合が増えることもあり、当院では6歳以上の仔に健康診断での血液検査やレントゲン検査を推奨しています。
≪心臓疾患の症状≫
・なんとなく元気がない。
・眠る時間が増えた。
・疲れやすくなっている様子がある。
・散歩に行きたがらない・運動したがらない。
・高いところに登らなくなった・遊ぶ様子が減った。
・呼吸が乱れることがある。
・呼吸が苦しそう。
・咳が出る。
・自ら動こうとしない。
・食欲がない。
・お腹が張っている・膨れている。(腹水)
・失神することがある。 など
≪身体検査で心雑音が聴取されたら≫
『心雑音=心臓が悪い』わけではありません。心雑音はⅠ(軽度)~Ⅵ(重度)段階に分類され、Ⅱの段階あたりまでは、生理的雑音による音の変化が聴取されることがあります。生理的雑音とは、肥満・削痩、脱水、貧血、心変位などにより、心臓から発せられる音が変化し、心雑音のように聞こえることです。これらは、音だけでは判断がつきません。では心雑音が軽度の場合に、生理的雑音として様子をみてよいかというとそうではありません。その中に心臓疾患が隠れていることもあり、また心臓疾患以外の病気が隠れていることもあるため、全身の検査でそれらを明らかにしていかなければいけません。検査により、それが様子をみられるものなのか、治療が必要な病態なのかを判断します。
ちなみに、『心雑音が強い=心臓がより悪い』わけでもありません。末期の心臓疾患では、心雑音が聞こえにくくなることもあります。したがって聴診だけでは病態の評価は出来ません。しかしながら検査で病態を明らかにした後は、経過を追っていく中で聴診の変化が非常に重要な指標のひとつになります。
≪心臓の検査って?≫
・血液検査(血球計算・生化学)
・レントゲン検査(胸部・腹部)
・超音波検査(心機能評価:壁の厚さ・狭窄・弁の状態、動き・逆流の有無、逆流量・駆出量・収縮力・異物・先天性疾患の有無などの評価)
・心電図
・血圧測定
・血液特殊検査(NT-pro BNP・ANP・内分泌ホルモン;副腎皮質、甲状腺、上皮小体・脂質代謝など)
心臓はご存知の通り、全身に血液を送り出す臓器であり、そのため心臓の機能が変化すると他の臓器に影響を与え、また他の臓器の影響を受けることがあります。したがって心臓の評価を行う際、全身臓器の機能を把握しておくことも重要です。ひとつの病気だけでなく他の病気が隠れていたり、基礎疾患が全ての病態に影響を及ぼしていたりすることもあるので、しっかりと病態を把握し、動物たちの負担を軽減させてあげることが必要です。
まずは一般血液検査(血球計算・生化学)・レントゲン検査(胸部・腹部)・超音波検査にてスクリーニング(心機能と全身の精査と評価)を行い、他の病気や基礎疾患が隠れている疑いがある場合は、特殊検査を追加します。また治療を行った場合はもちろんのこと、経過観察を行う場合にも、定期検査を実施し、早期発見・早期治療により疾患の進行を極力抑えることが重要です。また初期検査や定期検査で全身をスクリーニングする場合は、12時間以上の絶食で検査を実施します。(検査項目にもよりますが、お食事の影響で数値や臓器の位置が変わってしまうことがあるので細かい評価には絶食が必要です。)
☆ブレイクタイム☆-心腎連関について-
心臓の他臓器への影響は前述させていただきましたが、その中でも特に腎臓は心臓と深い関連があります。身体の中では心臓がポンプ、腎臓がフィルターの役割を担っています。ポンプとフィルターの関係以上に、腎臓が一部の血圧調節や赤血球の産生にも関与しているため、どちらかが悪化するともう一方も悪化してしまう悪循環に入ってしまいます。また、心臓の治療が腎臓の治療にもよい方向に働くこともあれば、逆に一方を治療することでもう一方に負担をかけることもあります。
(例⇒ACE阻害薬:心臓・腎臓とも負担軽減、皮下点滴:腎臓・負担軽減 心臓・過量で負担増など)
≪心臓疾患の内科治療≫
心臓薬は心臓を治すお薬ではありません。心臓の負担を取り除くお薬です。負担を取り除くお薬をやめてしまわないように気をつけましょう。
多くの心臓疾患が徐々に悪化していくことが多く、その間、心臓はその環境に順応しています。悪化の中で極力現状を保とうとしているのですね。そのような心臓の性質上、お薬で負担が取り除かれるとその負担が軽減された状態に順応します。そこでお薬をやめてしまうと、急激な負担が心臓にかかり、さらに悪化してしまうことがあるので途中でお薬をやめないよう気をつけましょう。